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動物園のあるまちプロジェクト

第3回

閉園危機から復活 大牟田市動物園の挑戦

勢いよく飼育員が差し出す肉に飛びつくライオン。獣医がその間、爪や口腔をチェックしていく

 飼育員が檻(おり)ごしに餌の肉を差し出すと勢いよく飛びかかってくるライオン。肉に夢中になる間に、獣医師が爪の状態などを確認していく。檻をたたく豪快な音と生き生きとした様子に、来園者の目が釘付けになる―。

 福岡県の最南端、人口約12万人の地方都市にある大牟田市動物園。1941年に開園し、飼育するのは約55種。園舎は古く、遊具が併設された昔ながらの“小さなまちの動物園”が、動物の豊かな暮らしに取り組む全国の園を表彰する「エンリッチメント大賞」(市民ZOOネットワーク主催)の2016年度大賞に輝いた。

 同園は採血や体重測定などをスムーズに行えるよう動物を指導する「ハズバンダリートレーニング」に力を入れる。きっかけは動物の高齢化への対応。同園の動物の約半数が寿命に近く、「病気の早期発見につながり、病気になったときも命を危険にさらす麻酔を打たずに処置できるかもしれない」と椎原春一園長は話す。

園にゾウやゴリラなど大型動物は少ない。「数ではなく、生き生き生活できているのを見てほしい」と話す椎原園長

 トレーニングは半数以上の動物で行い、ライオンは柵ごしに尻尾を出しての採血、キリンは尻尾を使った血圧測定など、ほぼ毎日実施。曜日ごとに来園者に日替わりで公開したところ反響は大きく、特色の一つとなった。

 獣舎や餌の与え方も工夫し、野生本来の行動ができる飼育環境に力を入れる。無理に増やさず、空いた獣舎は生きている動物が広く使えるようリフォームする。「数を見てもらうのでなく、一匹一匹が生き生き生活できているのを見てほしい」。こうした取り組みは動物にストレスを与えず、飼育員の安全にもつながっている。

 全国表彰も受けて注目される大牟田市動物園だが、その道のりは平たんではなかった。20年前の1996年度は約21万5000人あった来園者は、三井三池炭鉱の閉山による人口減などの影響で徐々に減り、04年度は約13万5000人に。一時は閉園も検討された。

 「新しい動物を飼う場所すらない。狭いところに動物を入れてかわいそうなイメージがあった」。存続を求める市民の署名運動を受け、06年度に導入された指定管理者制度で来園した椎原園長は、着任当時の状況を振り返る。

 ほぼ全員が入れ替わったスタッフはハズバンダリートレーニングなど動物福祉に力を入れた。注目を集め、16年度の来園者数は歴代3位となる25万1658人となり、息を吹き返した。

 注目を集めた背景には、積極的に動物やイベントの様子を公開したこともある。ホームページやフェイスブック上で訓練やイベント準備の様子までを丁寧に紹介。動物が死んだときも、病理検査の結果まで細かに伝える。椎原園長は「飼育員や職員の取り組み自体が面白く見てもらえると分かった。それが動物園を好きになってもらえることにつながる」と話す。

 情報公開とともに、市民から協力を申し出る声も増えた。DIYが得意な人と共同で獣舎のリフォームに取り組んだり、写真家に効果的な写真の撮り方を教わったりと、市民の“特技”を生かした園づくりが進んだ。

 写真家との連携では、市民が発行するフリーペーパーも誕生。動物だけでなく飼育員の思いなども紹介し、動物園の理解に役立っている。こうした市民の支えが増えたことで、飼育員の負担も減り、研究に専念できる環境も整った。

 市民と二人三脚でにぎわいを取り戻した大牟田市動物園。椎原園長は、「いろいろな技能や技術を持っている方と動物園をつくれれば、もっと面白い動物園がつくれる」と未来予想図を描いている。

〈ハズバンダリートレーニング〉
健康管理や治療を行いやすくするため、飼育動物に行うしつけ。笛の音や手の合図などで特定の姿勢を取らせたりする。ストレスを軽減する動物福祉と共に、人側の危険も減らす安全な飼育を目的とする。

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