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動物園のあるまちプロジェクト

第2回

ズーラシアもう一つの顔 希少種の保全担う

 広々とした獣舎内で、アムールヒョウやオカピなど、世界中の希少動物たちが伸び伸びと暮らす。園路には気候帯別の花や木が植えられ、来園者も自然の中にいるかのような気分が味わえる。日本最大級45.3ヘクタールの敷地面積を持つ「よこはま動物園ズーラシア」(横浜市)は、動物たちの故郷を再現した「生息環境展示」で知られる。

センターで繁殖に向けた研究調査を続けている絶滅危惧種のカンムリシロムク。これまでに約150羽を原産のバリ島に送った

 しかし、単に大規模なだけではない。最大の特徴は敷地内に設置された「横浜市繁殖センター」だ。近年、野生動物の減少で、動物園の「種の保全」機能の重要性が高まる中、世界各国と協力し、希少な野生種の飼育、繁殖に向けた調査・研究に取り組んでいる。

 センターは一般には非公開で、専任の研究員が希少な野生動物に関するさまざまな調査を行う世界でも珍しい研究拠点だ。横浜市内の他の2園(野毛山、金沢)の研究にも携わる。

 「人工的な飼育環境下で増やし、野生の環境が将来良くなったら元に戻す。『聖域』的な役割」。村田浩一園長(日本大学生物資源科学部教授)は、センターの意義を説明する。

 近年の実績では、バリ島(インドネシア)のみに生息し、絶滅が危惧されるムクドリの仲間「カンムリシロムク」の繁殖がある。現在約100羽を飼育し、これまでに約150羽をバリ島に送った。

 センター2階に30あるケージには、雄雌数羽ずつが同室し、相性のいいペアを見定める。飼育・繁殖はある程度の数がいないと難しく、職員の現地派遣で培ったノウハウが生かされる。

 1階ではマレーバクとベアードバクの繁殖に取り組み、バク専用の24の個室と12の放飼場が並ぶ。繁殖に成功したバクは園内のほか他園にも移動させ、国内で減少するマレーバクを供給する機能も果たしている。

 また、センター内には絶滅が危惧される動物の精子と卵子が氷点下196度の液体窒素で半永久的に保存されている。村田園長は「死んだ後も、将来的に種の再生に役立つような保存を」と話す。現状では困難でも、100年、200年先の未来を見据えている。

繁殖センターには、液体窒素に希少動物の配偶子が保存されている。保冷保存容器から精子が保存されているチューブを取り出す村田園長

 「種の保全」に力を入れているのはセンターだけではない。園内には公開している種ごとに繁殖施設が設けられ、例えばチーターならば、十頭程度までは飼育できるような広さと設備がある。

 研究・調査には多大な労力や費用がかかる。それでも種の保全に取り組む意義について、村田園長は「世界で学術研究が重要とされている中、海外から動物を手にいれるには研究が欠かせない」と強調する。

 海外では、動物の繁殖や研究に取り組む動物園に動物の飼育が許され、繁殖研究を進める条件の下で他園に動物を受け渡す。「動物のことをしっかり理解していなければ動物は飼えない」のが世界のトレンドだ。展示重視で、研究機能が不十分な日本の動物園に動物が来ない時代が訪れている。

 村田園長は「ヨーロッパでは、種の維持は動物園の連携でしか成り立たない。そうした考えで学術研究を進めていかないと、それに乗り切れない動物園はなくなっていくしかない」と危機感を強めている。

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