帯広市内の無職男性(56)は4年前、仮想通貨とFXの投資名目で約1800万円をだまし取られた。被害の1年後、経営していた会社は倒産し、そして自己破産。今は知人から月15万円ほどの援助を受けて日々をつなぐ。特殊詐欺被害が男性の人生も生き方も大きく沈ませた。「自分は大丈夫との思い込みが、取り返しのつかない事態を招いてしまった」。男性は今も悔やみ切れずにいる。(杉原尚勝)
外国人女から投資勧められ
男性は、婚活アプリで知り合った外国人の女から勧められるまま、会社や知人から借り入れた金を投資につぎ込んだ。当時、ビットコイン(BC)やFXが社会でもてはやされていた。その女から「私は何百ドルももうけている。興味ない?」と言われたのは、会社の事業がうまくいっていない時期。投資のリスクは知っていたが、「手元に資金があれば挽回できる」。魅力的な話にしか聞こえなかった。
女が勧めてきた投資スキームは、女が指定するプラットホームと、男性が使っていたBC取引の正規アプリとを連動させ、男性が正規アプリで購入したBCを女指定のプラットホームに流す-というもの。FXの方も同様。投資のたびに女とラインでやりとりした。
最初にBC取引として60万円分を送金した。女から5分ほど待つように連絡があり、BCがドルに換金されたタイミングで、「今、売ってください」と再び指示があった。その数分後、プラットホーム上には10万円分のもうけが出ていた。
見た目の利益、引き出し不可
「ちゃんとしてるんだ」。それから半年間で十数回、百万円単位で送金した。BC取引で約1480万円、FX取引で約320万円を投資し、女指定のプラットホーム上ではBCが約9200万円分に、FXが約2700万円分に。投資した分がいずれも大きく膨らんでいるように見えた。
ただ、成功していると喜べる心境ではなかった。会社や友人らからの借入金を投資に回し、その総額は1800万円ほどになっていた。女からはさらに取引が持ちかけられたが、「これ以上、借金を増やせない」。引き際を感じて全額を引き出そうと連絡すると、マネジャーを名乗る男からこんな返答。「税金として500万円かかるので入金して」
そんな大金を用立てられない。しかし、「あと数百万円あれば大金が手に入る」との思いがよぎり、金を工面するため知人に連絡を取った。「それ、詐欺だよ」。聞きたくなかった言葉を耳にして青ざめた。別の知人や弁護士にも相談したが、返ってくる言葉は同じ。プラットホームにもアクセスできなくなり、ついに現実を受け入れるほかなかった。
「自ら送金していたので、自分が投資をやっているつもりになっていた。すべては自分の責任」。そう自分に言い聞かせ、警察にも被害を届け出なかった。「お金が戻ってくるとは思えない。もう、あきらめるしかない」。そう思った途端、お金に対する執着も、何かをしようという前向きな意欲も失った。
「取り戻すため手数料が必要」
1週間ほど前、シンガポールの弁護士を名乗る男から電話があった。「詐欺グループが捕まり、あなたはだまし取られたお金を取り戻せる」。心臓を高鳴らせて聞き入った話の終盤、こんな言葉が飛び出した。「お金を取り戻すために、まず手数料として180万円が必要」。またか-。
「女の一味かは分からないが、また誰かにむしり取られるのか」。わが身に降りかかる悪意に恐怖を感じるのと同時に、手口が巧妙化する特殊詐欺の深刻さを改めて思い知った。そして被害に遭ったからこそ、こう思っている。「お金も人生の目的も何もかも失ってしまうのが詐欺被害。その手口は巧妙化し続けている。誰にとっても、自分は大丈夫なんてことは絶対にない」
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