もふもふの毛並みに短い手足。幸せそうな表情で落ち葉に埋もれる姿が、全国的にエゾタヌキファンを生み出した。きっかけとなったのはおびひろ動物園のツイッターで、昨年はシロフクロウも話題となった。近年のSNSによる発信は、全国的に動物園の知名度向上と新たなファンの獲得につながっている。
10月の平日、タヌキやシロフクロウの獣舎前には、カメラを手にした複数のファンの姿があった。「ツイッターでタヌキを見て来た。客には撮れないようなかわいい姿が発信されていて、見に行きたいと感じた」「SNSで見て興味が湧いた」。十勝毎日新聞社が行ったアンケートには、SNSをきっかけに初めて訪れたという声が多く見られ、拡散力の高さがうかがえた。
アンケートの「おびひろ動物園で魅力に感じる動物」でもライオン、トラを抑えてエゾタヌキが3位に。フクロウも7位とベスト10に食い込み、人気ぶりを証明。この結果は、従来の人気動物ではなくてもSNSを通じて、地域の身近な動物が主役になれるという可能性を示した。
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SNSについて聞いたアンケートでは「SNSを見て行ったことがある」が32・4%を占めた。「動物の埋もれている魅力を伝えられていたらうれしい。SNSを見て本州から来た人もいて、楽しみにしてくださってる声を聞くとうれしい」と同園広報班の松尾太郎班長は反響を受け止める。
エゾタヌキ担当で、タヌキブームの火付け役となった中山大志さんは投稿を1年以上毎日続けている。「今まで気にされていなかった動物も、丁寧な発信を続けることで興味をもってもらえる。そうすれば野生下の課題にも興味を抱いてもらえるのでは」。投稿する写真は日々の行動やかわいい表情などさまざま。毎日の投稿は思わぬところで実を結び、「全国からタヌキの情報が集まるようになり、他園との横のつながりができた。動物園のSNSの一つのモデルケースになれば」と、“映え”にとどまらない効果を実感する。
獣舎の老朽化、動物種の減少、地方財政の厳しさなど、動物園を取り巻く課題は多い。アンケートの自由意見では「小さい頃から当たり前に行っていたが、十勝を離れると動物園が近くにないところも多く、貴重な経験を得ていたのだと感じる。子どもの時の飼育員体験は今でも記憶に残る」「十勝の貴重な施設。素朴でも魅力ある動物園として残してほしい」といった、地方都市に動物園があるということをありがたく受け止める声が多かった。獣舎の改修については、賛同者から広く資金を集める「クラウドファンディング」の提案や協力を望む意見も複数あった。
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「小学生の頃、お小遣いを握りしめて通ったことを思い出した。子どもだけでも安全に遊べ、動物がたくさんいる夢のような場所。これからの子どもたちにも楽しい体験がたくさん待っていますように」(アンケートより)。帯広が“動物園のあるまち”で、動物たちが生き生きと暮らせるように。子どもたちに楽しい思い出を残せるように。そんな未来を作るには、市民や来園者と市、動物園が二人三脚で歩み続ける必要がある。(おわり、松田亜弓)
◆特集
・動物園のあるまち~再生へのステップ 一覧
・動物園のあるまちプロジェクト-十勝毎日新聞電子版特設ページ